鈍行列車一人旅

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伊予鉄と道後温泉~台風襲来

「西日本横断紀行 5日目 (八幡浜~松山~呉~海田市~岡山~京都)」

[2013/9/4]

早朝5時半、船内で数時間の仮眠から起床した僕は外の様子を見て愕然とした。
滝のように猛烈な雨が降っている。まさか、もう台風が来たのだろうか。
ここ八幡浜のフェリー乗り場から予讃線の駅までは、徒歩で30分ぐらいかかる。



昨日は九州を西から東へ横断し、別府から宇和島運輸フェリーに乗って四国へ上陸した。
今日は予讃線に乗って東へ進んでいく。途中で松山に立ち寄り、伊予鉄に乗って市内を回る予定だ。
予讃線を乗り通したら瀬戸大橋線で四国を出て山陽本線でさらに東へ、というのが今日の大まかな行程である。


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誰もいない駅前通りを、びしょびしょになりながら無心で歩き八幡浜駅へ到達した。
携帯で台風の居場所を確認してみる。それで、もう間もなく四国に直撃することがわかった
今日未明になってから台風は急速に速度を早め、予報を裏切って朝から四国の地を蹂躙しようとしていたのである。
まあ、予報を信じた自分が悪い。それに、ここまで来たならもう行くしかあるまい。



・予讃線 [八幡浜~松山]
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人っ子一人いない駅ホームに、6時15分発の松山行き列車が停まっていた。
3両編成での運行で、両端にキハ32形、中間にキハ40系が連結されている。
終点の松山まで約1時間40分の道のりだ。


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キハ32形はロングシートなので、乗るのは当然キハ40系。車内はまだ誰もいない。
ボックスシートに居座り、発車まで少し時間があるので朝食にありつく。
そもそも、こんな大雨の中で本当に発車するだろうか。このまま運休になりそうな気もする。

しばらくすると学生が数人乗ってきて、列車は定刻通り発車した。
特に遅れることもなく、容赦なく降りしきる豪雨の中を突き進んでいく。
先を進むごとに雨は勢いを増すが、車掌さんは至って落ち着いた口調だ。


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台風が今ちょうど真上を通過しているらしく、車窓は雨に阻まれて何も見えない。
途中で学生が大勢乗ってきて、座席はほぼ全て埋まった。
ぐしょぐしょに濡れた靴とズボンが原因で、身体がすっかり冷え切ってしまう。
途中で立ち往生しないことを祈りながら、終点到着までただ耐えて凌ぐ。


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やがて何の問題もなく、列車は定刻通り松山に到着した。
よくぞ走り切った!と気動車に別れを告げ、人混みに流されて駅前に出る。
さっきの豪雨は一旦収まったようだ。

トラブル続きの今回の旅だが、ここにきて初めて右足の靴底がベロベロに剥がれているのに気付いた。
ハードに履き倒してきたからやむを得ないが、よりにもよって何でこんなときに駄目になるのか。
しかし、長らく旅を共にしてきた愛用の靴だ。ここで新たに買い直して履き替えるつもりはない。

僕は松山駅前から伊予鉄道の乗り場に向かった。
身体はガチガチに冷え切っている。早く温泉に入りたい。松山といえば道後温泉だ。



・伊予鉄道市内線 [松山駅前~道後温泉]
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松山駅前から伊予鉄の市内電車に乗り、終点の道後温泉駅へ到着。
すぐ温泉に向かおうと思ったが、駅の横に何やら面白いものが展示してある。


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大昔、軽便鉄道か何かで走ってたSLみたいだ。
眺めていると駅構内から駅員さんがそそくさと出てきて、SLに乗り込みエンジン始動。えっ、動くのコレ!?



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それから間もなく、「坊ちゃん列車」が駅ホームに入線してきた。
なるほど、名前は知っていたが坊ちゃん列車ってこれのことだったのか、、、
見かけは本物のSLにしか見えないが、動力はディーゼルエンジンで環境にも優しい。
煙は水蒸気、ドラフト音は車外スピーカーで再現しているのが泣かせる。



・道後温泉
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偶然立ち会った坊ちゃん列車を見送り、駅から徒歩数分で道後温泉本館に到着。
日本国内で最も古い温泉の一つといわれ、約三千年以上の歴史を持つという道後温泉。
明治27年建造の本館はただ素晴らしいの一言だ。早く温泉に入りたいのに圧倒されて立ち尽くしてしまう。

受付で「神の湯階下」の入湯券を買い、さっそく温泉に入る。
階下の浴室は2ヶ所あり、どちらも石造りになっている。
貸切状態の中のんびり湯に浸かると、冷房で冷え切っていた身体がすっかり暖まった。


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この道後温泉本館は、ジブリ映画「千と千尋の神隠し」に出てくる巨大な風呂屋のモデルになったらしい。
確かに、よく見ると雰囲気はそっくり。蛙の従業員がいてもおかしくはなさそうだ。
散々眺めた後、アーケードの商店街を抜けて伊予鉄の駅に戻った。


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道後温泉駅の駅舎も、これまた素晴らしい佇まいである。
明治時代の洋風建築の旧駅舎を再現したものらしい。



・伊予鉄道市内線 [道後温泉~松山駅前]
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ホームには既に新型車両が停まっていたが、目当ての車両ではないのでパス。
すぐ後に、僕が乗りたかった車両がやってくる。1951年から導入されたモハ50形の前期車である。
さっき乗った後期車よりも重厚な顔つきをしている。半鋼製車さながらのクラシカルな外観だ。


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そして、路面電車といえば吊り掛けである。
板張りの床の下から、グオオオーーッと豪快な吊り掛け音が響く。
松山城にも立ち寄ろうと思ったが、予讃線の運行状況が気になるので一旦松山駅に戻ることに。
雨はすっかり収まったが、さっきの豪雨が何をもたらしたか把握しなければならない。



絶えぬ不安に苛まれながら、再び松山駅へ。駅前は妙に閑散としている。
もしや、、、と思って駅構内へ入ると改札前が人だかりでごった返しており、駅員さんが対応に追われていた。


嫌な予感が的中したようだ。





午前11時現在、四国の在来線は壊滅状態であった。
記録的な豪雨が各地を襲ったらしく、予讃線を初め四国の路線は全て運転見合わせ状態。
松山周辺だけ難を逃れたみたいだが、伊予西条から先で線路が冠水したらしく復旧の目処は立っていない。
早朝に八幡浜から乗ってきた区間も、僕が松山に着いてすぐ後に運転見合わせとなったらしい。

先に進むこともできないし、引き返すこともできない状態だ。
「伊予西条から先は、少なくとも夕方までは絶対動かない」と駅員さんは言う。
道路が冠水してしまったので、代行バスも一切出ないらしい。
これでは、松山が陸の孤島みたいではないか。これからどうしたらいいか、困った。

今日ずっとここで立ち往生した場合、明日の東京到達は極めて絶望的となるだろう。
ただ駅員さんによると、松山観光港から出るフェリーがまだ運行中だという。
現時点で、山陽本線は動いている。本州側に行けば何とかなりそうだ





ということで、急遽代替ルートを決めた
まず松山観光港から広島・呉に向かうフェリーに乗り四国を脱出、呉で下船する。
そこから今度は呉線に乗って、山陽本線と接続する海田市へ向かう。
海田市からは山陽本線でずっと東へ進み、可能な限り距離を稼ぐつもりだ。

まずは、ここから伊予鉄に乗って松山観光港へ行く必要がある。
僕は喧騒とした松山駅を出て、すぐ近くにある伊予鉄郊外電車の駅に向かった。




・伊予鉄道高浜線 [大手町~高浜]
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あの有名な平面交差のすぐ横に、伊予鉄高浜線の大手町駅がある。
次来る高浜行き列車に乗れば、12時15分に出る船にギリギリだが間に合う。


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数分後やってきたのは、かつて京王井の頭線のシンボルだった3000系電車だ。
井の頭線といえばレインボーカラーだが、伊予鉄譲渡以降はアイボリー色に統一されている。

ゆったりと走る列車にそわそわしながらも、列車は定刻通り終点の高浜に到着。
ここから少し行ったところに松山観光港がある。駅舎が素晴らしいが、のんびり見てる時間はない
フェリー出航まであと10分しかないので、一目散に走って乗り場へ向かう。



・石崎汽船 [松山~呉]

フェリー乗り場に着くとすぐに乗船切符を買い、出航1分前に船に乗り込む。
僕が最後の旅客であった。鉄路は壊滅的だが、船は何の問題もなく出航となる。


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四国の地が遠ざかっていく。まだ風が強く、甲板にいると荷物が吹き飛んでしまいそうだ。
ここにきて遂に、今回の横断旅の行程は完全に破綻した
台風はもう通り過ぎたが、本州側も大打撃を受けたらしい。これからどうなることやら、、、

さっき温泉に立ち寄ったおかげか、上着を着なくても全然冷房冷えしない。
さすが道後温泉だ。三千年の歴史の底力を感じる。


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船に揺られ、やがて約二時間で呉港に到着。
港には巨大な造船所がある。かつて日本一の海軍工廠があった所だ。
呉も色々探索してみたいが、まず呉線の運行状況を確認する必要がある。



・呉線 [呉~海田市]
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港から、歩いて数分で呉駅に着く。
幸いなことに、呉線は徐行運転ではあるものの全線運行していた
あと少しで広島行きの列車がくるとのことなので、ホームで大人しく待つことに。

それから20分ぐらいして、広島行き列車がゆっくりと入線してきた。
徐行運転なので少し時間がかかるが、今は乗れるだけでも奇跡と思ったほうがいいだろう。


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海沿いをひた走るうちに、空一面を支配していた雲があっという間に引いていく。
どうやら、台風一過らしい。南西方向は既に晴れ渡っている。


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やがて、呉から約一時間で列車は海田市に到着した。
ここまでくればもう大丈夫だ。山陽本線に乗ってひたすら東に進んでいけばいい。



・山陽本線 [海田市~福山]
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海田市到着から約10分ほどで、岡山行きの普通列車がやってくる。
周りの路線は何処かしこも運転見合わせ状態なので、あとは山陽本線だけが頼りだ。


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実に、四日ぶりの青空。三日前は濃霧に覆われていた広島空港大橋を見上げる。
雨空に慣れた目には、嘘みたいに冴え渡って見えた。


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瀬戸内海沿岸を行く。四国側は、まだ黒雲に覆われている。
さっきの豪雨は一体何だったんだと思ってしまう。
日が傾きかける中、列車はほぼ定刻通り福山に到着した。



・山陽本線(快速サンライナー) [福山~岡山]
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福山からは、快速列車のサンライナーに乗り換えて進む。
サンライナー専用塗色の117系だ。4両編成にしてワンマン運転なのがすごい。


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岡山到着辺りで日が暮れる。
駅員さんが言っていた通り、予讃線は17時頃に運転再開となったらしい
あのまま松山で立ち往生してたら、と思うと心底ゾッとした。

やがて、列車は18時20分に終点の岡山に到着する。一段落したいが、まだまだ先は長い。
少なくとも今日中に大阪までは行きたい。しかし、ここで再びマズイことに気付く。




大雨の影響で、岡山から先の山陽本線(三石~上郡間)が終日運休となっていたのだ。
終日運休が決定すれば、その日中は絶対に列車は動かない。
もうどうしようもないか、、、と思いきや、この区間は赤穂線が併走して走っているではないか!
赤穂線は普通に運行しているようだ。僕は一時間後に出る播州赤穂行きの列車を待った。



・赤穂線 [岡山~播州赤穂]
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湘南色の115系が、東岡山で他線の遅延列車を待っている。
発車時刻から約20分経過したが、乗り継ぎ客が来るまで決して発車することはない
こうして手堅く待ってくれる列車に、僕は道中で何度も助けられてきたものだ。
だから何時間待たされようが、もう別に構わない。

東岡山を出ると、列車は順当に道を辿り終点の播州赤穂に到着する。



・山陽本線/東海道本線(新快速) [播州赤穂~京都]

ヘトヘトになってきたが、あともう少し!
播州赤穂からは新快速に乗って先に進む。12両編成の223系だ。
途中で川が大増水しているが橋の上を最徐行して突破、少し遅れが出た。


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それから約2時間半経ち、列車は夜23時前に無事京都に到着した。
松山から芋ずる式の如く移動してきたが、自分でもよくここまで来れたなと思う。
まあ、ただ単に運がよかったのだろう。今日は、本当に長かった、、、


明日は京都の名物電車の嵐電に乗車する。その後は京阪電車に乗って比叡山を訪れる予定だ。
比叡山から戻ったら東海道線経由でひたすら東に進み、明日中に東京へ帰らなければならない。
もう、体力・気力ともに限界だ。駅前で適当に夜飯をすました後、宿になだれ込んで即刻就寝した。

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2013/10/01 | 西日本横断紀行


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